2011年2月28日月曜日

【肥田美佐子のNYリポート】「神の業」のバンカー、ゴールドマンCEOの「勝算」

 「米証券取引委員会(SEC)に提訴された日は、私の職業人生のなかで最悪の日の一つだった」

 米東部時間4月27日、上院常設調査小委員会公聴会で、金融大手ゴールドマン?サックスのブランクファイン最高経営責任者(CEO)は、SECが16日に同社とトレーダーのトゥール氏(31)を証券詐欺で提訴した件について、こう心情を吐露した。27日は、トゥール氏をはじめ、他の幹部ら6人も証言台に立った。同社は、サブプライムローン(信用度の低い個人向け住宅ローン)関連の債務担保証券(CDO)で、社内では「shitty deal」(クズのような取引)などと呼ばれていた低質の証券を顧客に勧め、損失を負わせる一方、自らは住宅バブルの崩壊を予測し、手持ちのCDOを大量売却して巨利を得るなど、不正取引を行っていたといわれる。

 米メディアによれば、ブランクファインCEOは、意外にも「心配性」の一面があるという。入社時、「いつまでサバイバルできるか」と思いをめぐらせ、パートナー就任時には「平均的なパートナーの在任期間と同じくらい、自分ももちこたえることができるかどうか」自問したという。だが、公聴会では、2時間にわたって議員たちの詰問や怒声を浴びながらも、同社の正当性を再三主張。SECと徹底抗戦の構えを見せつけた。

 「顧客に売っている商品に相反する賭けをしながら、なんとも思わないのか!」と激昂する同委委員長 rmt dragon nest
のレビン議員に対し、「そのとおりだ。気にしない」と返答。顧客は、購入する商品を通して、自らが望むリスクを背負うわけであり、ゴールドマンの見解になど「留意するはずがない」と言い切る。

 だが、「顧客の信頼なしにはサバイバルできない」というブランクファイン氏の証言が示すように、企業イメージを左右するマスコミ報道は、かなり気になっていたようだ。議会に提出された社内の電子メールも、それを物語っている。幹部の一人がブランクファインCEOに送った「NYT」(「ニューヨーク?タイムズ」紙)と題するメール(2007年11月18日付)には、ざっと以下のようなことが書かれている。

 「われわれがいかにして住宅ローン問題を回避したかを報ずる記事が、明日、載る予定だ。今のところ、95%の確率で1面に掲載されるだろう。内容的には、先週の『ウォール?ストリート?ジャーナル』の記事と相違があるとは思わない。(中略)記事は、元GS(ゴールドマン?サックス)関係者が計り知れない影響力を持っていることに言及している。ルービン(元財務長官)やハンク(ポールソン前財務長官)などが代表だ。(中略)GSがすべてを牛耳っているという主張である(後略)」

 日曜日にもかかわらず、ブランクファインCEOは、この12分後にこう返信している。

 「もちろん、われわれも住宅ローン問題を回避するこ
となどできなかった。損失は被った。だが、ショート(売り)で、損失を上回るもうけを出した(後略)」

 公聴会当日、ある民主党議員は、ウォール街をカジノにたとえ、ゴールドマンは「カジノを経営しながら、プレイヤーの役も務めていた」と発言。ラスベガスの方がチェック機構がはたらいていると批判した。これに対し、ネバダ州の共和党議員は、「ラスベガスでは大半の人が勝算の低さを認識しているが、ウォール街では勝算を操作する」と、カジノに軍配を上げる。

 「つまり、カジノの経営者かプレイヤーのいずれかを選ぶことはできるが、同時に2つの役割を兼ねるべからず、ということだ。これが『ボルカー?ルール』である」

 マンハッタンの中心地5番街にオフィスを構えるベテラン?ヘッジファンドマネージャー、クレイグ?ドリル氏は、ボルカー米経済再生諮問会議議長(元米連邦準備理事会<FRB>議長)が主導する、厳しい銀行規制を盛り込んだ金融改革について、そう話す。

 昨年11月、英紙『タイムズ』とのインタビューで、「株主の利益を守るためにも社会の目的のためにも、わが社の社員には、今やっていることを続けてもらいたい。彼らの野心に枠をはめたくないし、報酬制限論議など考えられない」と語ったブランクファインCEO。自らを、公益のために「神の業を遂行している」バンカーと神聖化する一方で、「私が手首を切れば世間が歓喜す
ることくらい分かっている」と、冷静な自己評価も口にする。

 11月の中間選挙に向けて、支持率挽回を目指し、一歩も引かない構えのオバマ政権とのバトルは、いっそう激しさを増しそうだ。

*****************

肥田美佐子 (ひだ?みさこ) フリージャーナリスト

 東京生まれ。『ニューズウィーク日本版』の編集などを経て、1997年渡米。ニューヨークの米系広告代理店やケーブルテレビネットワーク?制作会社などにエディ ター、シニアエディターとして勤務後、フリーに。2007年、国際労働機関国際研修所(ITC-ILO)の報道機関向け研修?コンペ(イタリア?ト リノ)に参加。労働問題の英文報道記事で同機関第1回メディア賞を受賞。2008年6月、ジュネーブでの授賞式、およびILO年次総会に招聘される。 2009年10月、ペンシルベニア大学ウォートン校(経営大学院)のビジネスジャーナリスト向け研修を修了。『AERA』『週刊エコノミスト』、『サンデー毎日』『ニューズウィーク日本版』『週刊ダイヤモンド』『週刊東洋経済』などに寄稿。日本語の著書(ルポ)や英文記事の執筆、経済関連書籍の翻訳も手 がけるかたわら、日米での講演も行う。共訳書に『ワーキング?プア――アメリカの下層社会』『窒息するオフィス rmt ラテール
――仕事に強迫されるアメリカ人』など。マンハッタン在住。www.misakohida.com/

*****************

肥田 美佐子のNYリポート バックナンバー>>

【関連記事】
? UPDATE:米連邦検察当局、ゴールドマンに対して犯罪捜査を開始
? 米議員、ゴールドマンから悔恨の情は引き出せず
? ウォール街はゴールドマンの議会公聴会にくぎ付け
? くずのような取引だった=米ゴールドマン社員の電子メール
? 【肥田美佐子のNYリポート】ニューヨークは「大不況」を克服できるのか

引用元:精霊物語グランドファンタジア(Grand Fantasia) 専門サイト

0 件のコメント:

コメントを投稿